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ダイバーズウォッチの基礎知識。ヘリウムエスケープバルブとは?

ヘリウムエスケープバルブ 高級時計

出典:https://www.facebook.com/rolex/photos/

ダイバーズウォッチを探しているとき、「ヘリウムエスケープバルブ」という言葉に出会ったことはありませんか?意味がよくわからないまま、「なんとなく高機能そうだ」と感じる方も多いかもしれません。

特にロレックスやオメガなどの本格派ダイバーズウォッチには、ヘリウムエスケープバルブが搭載されていることがあります。ただし、これは日常生活ではほとんど使う機会のない、特殊な仕組みです。

本記事では、ヘリウムエスケープバルブの役割や仕組みをやさしく解説します。更に、搭載モデルの特徴や防水性能との関係、潜水においてなぜヘリウムが問題になるのかについても紹介していきます。

ヘリウムエスケープバルブとは?

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ダイバーズウォッチには、高い防水性能に加えて、過酷な潜水環境に対応するための特別な仕組みが搭載されていることがあります。その代表例が「ヘリウムエスケープバルブ」です。ヘリウムエスケープバルブは、飽和潜水と呼ばれる深海での長時間作業に対応するために開発されました。

飽和潜水では、呼吸用のヘリウム混合ガスが時計内部に侵入することがあります。浮上時にこのヘリウムが膨張すると、風防が外れるなどの破損につながるおそれがあります。ヘリウムエスケープバルブは、内部にたまったガスを外へ逃がすことで、そうした破損を未然に防ぐための機構です。

ロレックスやオメガなどの本格ダイバーズモデルに採用されており、プロの潜水士や高圧環境で働く人々にとって欠かせない機能です。次の項目では、ヘリウムエスケープバルブの仕組みや働きについて、さらに詳しく見ていきましょう。

ヘリウムエスケープバルブの機能、役割

ヘリウムエスケープバルブは、時計内部にたまったヘリウムガスを安全に外へ排出するための装置です。飽和潜水では、作業員が高圧環境に長時間とどまり、呼吸にはヘリウムと酸素を混ぜたガスが使われます。ヘリウムは非常に分子が小さいため、密閉構造の時計であっても、時間とともに内部に侵入してしまいます。

問題が起こるのは浮上時です。減圧によって外の気圧が急激に下がると、時計内部のヘリウムが膨張し、風防を内側から押し出す危険が生じます。そうしたトラブルを防ぐために開発されたのが、ヘリウムエスケープバルブです。排出機構には、自動的に開放される自動式と、ねじ込み操作で開ける手動式の2種類があります。いずれも飽和潜水のような特殊な環境で、時計の破損を防ぐために欠かせない役割です。

ロレックスでは、この装置を「ガスエスケープバルブ」と呼び、独自の特許も取得しています。ただし、レジャーダイビングのような一般的な使用では、この機能が必要になることはほとんどありません。使用目的に合ったモデルを選ぶことが大切です。

飽和潜水とは?

ロレックス 飽和潜水

出典:https://www.facebook.com/rolex/photos/

飽和潜水とは、水深200〜300メートルといった深海で、ダイバーが長時間にわたって作業するための特殊な潜水法です。通常の潜水とは異なり、身体を高圧環境に慣らし、ヘリウムと酸素を混ぜた呼吸ガスを使用します。これは、窒素酔いや減圧症といった深海特有のリスクを避けるために不可欠とされています。

作業員は、作業期間中「加圧室」と呼ばれる特別な空間で生活するのが基本です。この空間は、実際の水深と同じ気圧に保たれており、密閉構造の移動装置「ダイブベル」を使って海底へと移動します。作業を終えてすぐに元の気圧へ戻ることはできません。体への負担を避けるために、数日にわたる段階的な「減圧プロセス」を経て、ゆっくりと地上環境に戻ります。

このような高気圧・高リスクの環境では、時計にも優れた耐圧性と信頼性が求められます。内部に侵入したヘリウムを安全に排出するのが、ヘリウムエスケープバルブの役割です。こうした仕組みによって、風防の破損やケースの変形を防げるのです。飽和潜水は、海底資源の探査や海底ケーブルの敷設といった、インフラ整備の最前線で活用されています。

ヘリウムを使用する理由

ヘリウムエスケープバルブ

出典:https://www.facebook.com/rolex/photos/

飽和潜水で使われる呼吸ガスにヘリウムが含まれるのは、いくつかの重要な理由があります。先ず、深海では高圧環境にさらされるため、通常の空気に含まれる窒素や酸素はそのまま使えません。窒素を高圧下で吸い込むと「窒素酔い」と呼ばれる麻酔作用が起こり、意識がもうろうとしてしまいます。更に、酸素は一定以上の圧力下で毒性が強まり、深い水深では使用が制限されます。

その代わりに用いられるのが、酸素とヘリウムを混合した「ヘリウム混合ガス」です。ヘリウムは窒素に比べて麻酔作用がなく、高圧下でも安全に使えます。また、分子が軽く、呼吸時の抵抗が少ないのも特徴です。こうした性質により、深海での長時間作業でも呼吸がしやすく、身体への負担も抑えられます。

ただし、ヘリウム分子は非常に小さいため、ダイバーズウォッチのわずかな隙間からでも侵入してしまうのです。内部にたまったヘリウムは、浮上時に膨張して圧力差を生み、風防を内側から押し出す危険があります。こうしたトラブルを防ぐために、時計にもガスを外へ排出するバルブ機構が必要になりました。

飽和潜水の現場では、呼吸の安全性だけでなく、装備の信頼性を保つためにも、ヘリウムの特性に合わせた設計が欠かせません。

どんな状況でヘリウムが入り込んでしまうのか?

ヘリウムは分子が非常に小さく、空気よりも細かな隙間に入り込みやすい性質を持ちます。そのため、ヘリウム混合ガスに満たされた環境に長時間さらされると、時計に影響が出ます。特に防水性の高いダイバーズウォッチでも、内部にヘリウムが少しずつ浸透してしまうのです。

飽和潜水では、作業員が高圧環境の「加圧室」に数日間滞在し、作業を続けます。この空間では、酸素とヘリウムを混ぜた呼吸ガスが常に充満しています。時計はその間も着用されており、ヘリウムの影響を受けてしまうのです。裏蓋やリューズの接合部、風防周辺などの隙間から、ゆっくりと入り込んでいきます。

問題が起こるのは、作業を終えて減圧するタイミングです。外の気圧が急激に低下する一方で、時計内部に残ったヘリウムは膨張します。逃げ場を失った圧力が風防を内側から押し出すことで、破損につながる可能性があるのです。

風防が破損すれば、時計としての機能を失うだけでなく、修理費も高額になる場合があります。こうしたリスクを回避するために考案されたのが、ヘリウムエスケープバルブです。この装置は、内部の圧力が一定以上になると作動し、時計内のガスを外に排出します。

自動式と手動式の2タイプがあり、飽和潜水のような特殊な状況でこそ、その役割が最大限に発揮されます。

ヘリウムエスケープバルブが搭載された人気モデル

飽和潜水に対応する本格的なダイバーズウォッチのなかには、ヘリウムエスケープバルブを備えたモデルがあります。これは高圧下で内部にたまったヘリウムガスを排出し、風防の破損やケースの変形を防ぐための大切な仕組みです。つまり、極限環境でも信頼性を保つために設けられた、プロフェッショナル仕様の証といえるでしょう。

今回は、ロレックス、オメガ、チューダーという信頼性の高いブランドから、代表的な搭載モデルを取り上げます。それぞれの防水性能や設計に込められた思想を通じて、なぜこの仕組みが必要とされるのかをわかりやすく紹介していきます。

ロレックス シードゥエラー

ロレックス シードゥエラー

出典:https://www.facebook.com/rolex/photos/

ロレックス「シードゥエラー」は、飽和潜水のために開発された象徴的なダイバーズウォッチです。1967年に登場し、プロフェッショナル向け市販モデルとしては初めてヘリウムエスケープバルブを搭載しました。それに先立ち、フランスの潜水会社コメックス向けに製造された特別仕様のサブマリーナーがあります。そのRef.5514には、ヘリウムエスケープバルブが初めて採用されました。これが、ロレックスにおける実用化の第一歩となったのです。

現行のシードゥエラー(例:Ref.126600)には、自動式のヘリウムエスケープバルブが備わっています。飽和潜水中に発生する内部と外部の圧力差から、風防の破損を確実に防ぐための仕組みです。1220メートル(122気圧)という防水性能は、極限環境でも使用できるレベルにあります。

重厚感のある外観ながら、ロレックスらしい洗練された仕上げも魅力です。ダイバーズウォッチとしての性能だけでなく、コレクターズアイテムとしての人気も高く、多くの支持を集めています。

スペック:Ref.126600

自動巻き(Cal.3235)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径43mm、厚さ15mm)。122気圧防水。2,022,900円(税込み)。

オメガ シーマスター プラネットオーシャン

オメガ シーマスター プラネットオーシャン

オメガ「シーマスター プラネットオーシャン」は、技術力と高い防水性能を兼ね備えた本格派ダイバーズウォッチです。サイズや素材のバリエーションが豊富で、用途に応じて選べます。特にRef.215.30.44.21.01.002は、代表的なモデルとして広く知られています。

このモデルには、手動式のヘリウムエスケープバルブを搭載。バルブには「He」の刻印があり、構造はスクリュー式です。ダイバーが必要に応じて操作できる設計で、飽和潜水のような高圧環境にも対応しています。外観からもプロフェッショナルな印象が伝わります。

ムーブメントには、Cal.8900を採用。スイス連邦計量・認定局(METAS)の認定を受けたマスタークロノメーターで、高精度と耐磁性能を備えています。信頼性に優れたこのムーブメントは、長時間の使用でも安定した性能を発揮します。

全体のデザインはスポーティーで洗練されており、実用性と美しさを兼ね備えた一本といえるでしょう。

スペック:Ref.215.30.44.21.01.002

自動巻き(Cal.8900)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径43.5mm、厚さ16.5mm)。60気圧防水。価格要問合せ。

チューダー ぺラゴス

チューダー ぺラゴス

チューダー「ぺラゴス」は、実用性と機能性を高次元で両立した本格派のダイバーズウォッチです。プロフェッショナルユースを意識した設計が特徴で、飽和潜水を想定した自動式ヘリウムエスケープバルブを搭載しています。このバルブは、圧力差によって生じる風防の破損を防ぎ、極限の潜水環境でこそ真価を発揮する重要な装置です。

ケース素材には、軽量で耐食性に優れたチタンを採用。長時間の着用でも負担が少なく、ダイバーにとって信頼できる装備といえるでしょう。視認性を高める大きめのインデックスや針、暗所での判読性に優れたルミノバの使用も、実用性を重視した設計の一環です。

更に、バックル部分にはチューダー独自の自動調整機構が組み込まれています。潜水スーツの厚みに応じてバンドの長さが伸縮するため、フィット感を損なうことなく、安全性と快適性を両立できます。

ロレックスの技術的ノウハウを継承しながらも、チューダーならではの個性と価格帯で展開されている点も魅力です。コストパフォーマンスに優れたプロフェッショナル向けダイバーズとして、高い評価を得ています。

スペック:Ref.M25600TB-0001

自動巻き(Cal.MT5612(COSC))。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。チタン製ケース(直径42mm、厚さ14.3mm)。50気圧防水。731,500円(税込み)。

ヘリウムエスケープバルブに関する疑問

ヘリウムエスケープバルブという機構は、時計に詳しい方であっても、日常的に耳にする機会は多くありません。そのため、「本当に必要なのか」「自分の使い方で意味があるのか」と疑問に思う人も少なくないでしょう。

実際のところ、このバルブが真価を発揮するのは、飽和潜水のような特殊かつ極限の環境に限られます。日常生活やレジャーダイビングにおいては、ほとんど活躍の機会がありません。

そこで今回は、ヘリウムエスケープバルブがないと起こりうるリスクについて解説します。
あわせて、市場での普及率や代表的な搭載モデルについてもご紹介します。また、一般的なダイビングに必要とされる防水性能との違いについても、わかりやすくお伝えする内容です。

ヘリウムエスケープバルブがなかったら?

ヘリウムエスケープバルブがない時計で飽和潜水を行うと、減圧の際に問題が生じます。特に浮上時の急激な気圧変化によって、内部にたまったヘリウムガスが膨張するのです。
その結果、内部から強い圧力がかかります。風防が外側へ飛び出したり、裏蓋が変形・破損したりするなどの深刻なトラブルが起こるおそれがあります。

このような事態は、単なる時計の故障にとどまらず、ダイバーの安全にも関わる重大なリスクです。実際に過去には、ヘリウムエスケープバルブが未搭載だったために減圧中に風防が吹き飛びました。作業の中断や緊急対応を余儀なくされた事例も報告されています。
こうしたリスクを回避するには、時計の高い密閉性だけでなく、内部圧力を適切に逃がす排出機構が必要とされます。

だからこそ、飽和潜水のような極限環境で使用されるダイバーズウォッチには標準装備が必要です。ヘリウムエスケープバルブは、その代表的な機構といえるでしょう。ただし、日常生活やレジャーダイビングといった通常の使用環境では、こうしたバルブがなくても支障はありません。

あくまで特殊用途における安全装置であり、その搭載が時計の本格仕様を象徴しているともいえるでしょう。

ヘリウムエスケープバルブを装備した時計は多いのか?

ヘリウムエスケープバルブを搭載した時計は、ダイバーズウォッチ全体の中では多くありません。主に500m以上の防水性能を持つプロ仕様のモデルに採用され、飽和潜水のような特殊な環境を想定して設計されています。

代表的なモデルには、ロレックスの「シードゥエラー」や「ディープシー」があります。その他、オメガ「シーマスター プラネットオーシャン」やチューダー「ぺラゴス」なども対象です。更にドクサやジンといった一部のマイクロブランドにも、同様のバルブを備えたモデルがあります。

一方で、300m防水の一般的なダイバーズウォッチでは、バルブは必須機能ではありません。設計やコストの面から搭載されないことが多く、市場でも全体の1割未満にとどまります。

これは国際規格ISO 6425でも、ヘリウムエスケープバルブが必須要件に含まれていないためです。つまり、このバルブは通常の防水時計には不要な、プロフェッショナルモデル向けの機能といえるでしょう。

スキューバダイビングに必要な防水性とは?

スキューバダイビングで使う時計には、十分な防水性能が求められます。国際規格ISO 6425では、「100m以上の防水性」が最低条件です。しかし、実用面では200m防水以上のモデルが推奨されています。これは、ダイビング中の水圧変化や急な動作に耐えるためです。

水深30mや50mの防水性能では、日常生活や浅い水辺での使用には対応できます。ただし、スキューバダイビングには適していません。防水性が不十分な場合、内部に浸水するおそれがあり、気温変化や経年劣化によるパッキンの弱体化もリスク要因になります。

スキューバダイビング用の時計は、ねじ込み式リューズを備えていることが重要です。
さらに、厚みのある風防や強化されたパッキン構造も求められます。ISO 6425に準拠した設計が望ましく、視認性や操作性にも配慮されている必要があります。

なお、飽和潜水で必要とされるヘリウムエスケープバルブは、レクリエーションダイビングでは不要です。重要なのは、使用目的に応じた防水性と構造を持つ時計を選ぶことです。

時計を破損から保護するヘリウムエスケープバルブ

ヘリウムエスケープバルブは、飽和潜水のような極限環境下で時計を守るために誕生した特殊な機構です。

ヘリウム混合ガスが内部に蓄積された場合、減圧時にそれを安全に排出することで、風防やケースの破損を防ぎます。この機能は、日常生活で必要になることはほとんどありません。

しかし、本格的なダイビングや高圧環境で活動するプロフェッショナルにとっては、非常に重要な装備です。ヘリウムエスケープバルブの搭載は、その時計に高い技術力と信頼性が備わっていることを示すものです。

もし、ダイバーズウォッチを選ぶうえで「本物のプロ仕様」にこだわるなら、バルブの有無はひとつの判断基準になるでしょう。

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